竹田津実 「北の森の診療所だより」

第10回 全てがうれしい、4月

雪が雨になり、また雪になる。
小さな気温の変化に合わせる天空の水分は忙しい。
4月はそんな月。

アトリの群れがワラワラとおりてきて、ババーンと飛び立っていった。
ベニヒワが去り、ミヤマホオジロも帰ってゆく。
みんなふるさとの北をめざす。北帰行だ。
これも忙しい。



フキノトウが顔を出すと、遅れてなるものかと
あたりに春がいっせいに姿を現す。
正直なもので、とけだした水も春の顔をしている。
北国に住むものには全てがうれしい季節。



キトウシの山にカタクリを見に出かける。
林は赤紫のじゅうたんに埋まっていた。



気分がよくなって家にとって返し、
倉庫のなかから数年前に撮った写真を取り出す。
カタクリの近くにそれを飾って春の一日を楽しむことにする。
ビールが飲みたくなった。
ついでに裏のドイツトウヒの森にも一枚。
午後になって、活動時間の長くなったキタリスが鑑賞にやってきた。


いつの頃からか、里帰りと称して撮った写真を、撮った場所に置いて
ひとり楽しむ習慣をつけてしまった。
ずいぶんまえに、キトウシの林道ぞいの2kmに
167枚の大型のパネルを置いて、
4ヶ月間、野外写真展をやったことがある。

一度自然の中から切り撮られたものを
もう一度里帰りという形で自然の中に置くと、
少し別な顔つきの写真に変化するのがうれしくて、やみつきになっている。
困ったことだ。

カタクリの赤紫に刺激されたのか、林は次々と春を競った。
ニリンソウの白い花、エゾエンゴサクの淡い紫と
日替わりで主役が交代していたら、
ある日、はずかし気に桜花が登場した。
やはり春の主役はこの花だと思ってしまう。